コラム

Column

身体にはたらきかけてくる言葉とはどんなものだろう
  • 2015/06/15
  • からだの使い方

こんにちは稲田です。

今日は、身体と言葉についての関係を考えてみたいと思います。

身体に対する言葉の影響力について、日本人ほど深く省察してきた民族はいないんじゃないでしょうか?

日本の武芸は戦国時代にかけて技法が完成されていき、同時に能楽(のうがく)なども武士階級に盛んに好まれていました。

室町時代に観世流の能楽を大成した世阿弥には『風姿花伝』という身体技法の伝書があり、心身の働きの心得を詳細に記述しています。

また、剣術の世界では、江戸時代初期の徳川将軍家の兵法指南役で柳生新陰流で有名な、柳生宗矩(やぎゅうむねのり)の書いた『兵法家伝書』というのがあります。

この書は、実戦でどのようにあるべきかという兵法本来の思想だけでなく、兵法は如何にあるべきかという社会的な面からの思想も述べられています。

剣術技法だけでなく、心の運用にも着目していましたね。

現代で言うメンタルトレーニング的な面が強く、相手の動きや心理の洞察、それを踏まえた様々な駆け引き、またいかなる状況においても自身の実力を完全に発揮し得る心理状態への到達・維持など、実戦における心理的な要素を極めることで、より高みに達することを目指したものであった。(ウィキペディアより)

このような書を通して語られた言葉は、読む者にとっては身体を変化させるほどの強く動かす言葉となります。

このことについて、思想家・文筆家であり自らも合気道の道場を主宰されている内田樹せんせいは、著書の中で非常にわかりやすく述べられているので引用させていただきましょう。

街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)


「ないもの」を「あるかのように」の小見出しで書かれた一節です。

この「身体にダイレクトに触れる言葉」を駆使することが僕のような身体技法の指導者にとって喫緊(きっきん)の実践課題となります。

実際の稽古を見ていればわかるとおり、僕がしているのは、少しだけ動いて見せて「範例」を示すだけで、あとはずっとしゃべり続けるだけです。

手取り足取り、「ここをこうやって」ということはほとんどしません。

僕が門人に要求するのは、僕の身体に感覚的に同期することと、僕の話す言葉が直接身体に触れる経験をしてほしいということ、それだけです。

感覚的に同期すること、言葉が直接身体に触れる経験、このあたりは実際に運動の指導をしたり受けたりしている方なら、うなずけるのではないでしょうか。

さらに、内田せんせいは、

指導する時の言葉は「そこにないもの」を指示する言葉のほうが身体によく届く

と言われます。

つまり、上腕二頭筋をどう動かせというような「存在するもの」をどう動かすのか指示すると、うまくいかないというわけです。

それは、中枢からの運動指令が出て骨格筋を動かそうとすると、どうしてもぎこちない動きになるからですね。

なぜぎこちない動きになるかというと、その箇所だけに集中しようとしようとすると、その他の身体の動きがフリーズするからです。

武道的な動きの中で、他の身体部位が全部フリーズして、一か所の筋だけが動くという不自然なことはないからです。

武道に限らず、ダンスや体操などの動きも同じですよね。

凡庸な指導者は「存在する身体部位」をどう操作するのかばかりを口にする

とも指摘されています。

「そこにないもの」を想像してもらうこと

・刃先が空気を切り裂き、切っ先が畳にずぶりと突き刺さるように腕を打ち下ろす。

・ゼリーが詰まったプールの中を手探りで前に進むように手のひらを動かす。

・青磁(せいじ)の巨大なつぼに閉じ込められていて、両手で滑らかなつぼの内側を手探りする。

これらは、合気道の身体運用について、言葉の指示がうまくいった例として挙げられています。

やはりすぐれた指導者というのは、自然とイメージと言葉をうま〜く使っているんですね。

今日は、引用が多かったですが、最後に「ああ、なるほどなー」と思わされた文章があったので記述しておきますね。

指導の参考になれば幸いです。

それではまたお会いしましょう!(^-^)/

「現実にはありえないのだけれど、そう言われてみると妙に身体的リアリティがある状況」を言語的にどうやって指示できるかという能力は指導者にとってかなり優先順位の高い資質です。

ただ、こういう想像的な状況設定にも人間はすぐ慣れてしまって、「ああ、いつものあれね」というふうに定型的な対応をするようになって、動きの鮮度が失われる。

ですから、「生まれてから一度もしたことがない動作」を要求する状況設定を次々と思いつかないといけない。

僕が身体技法の指導者として余人に勝る点があるとすれば、「ありえない比喩を次から次へといくらでも思いつける才能」がそれではないかと思います。



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 ありえないよなー
 ここからあいつの背中に飛び移る動きって



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