
コラムColumn
- ストレス曲線から考える—「前なら平気だった」が変わりはじめるとき
-
- 2026/08/15
- 症状・からだのサイン
-
「最近、疲れが取れなくなった」
「以前なら平気だったことが、しんどくなった」
「身体は疲れているのに、なぜか眠れない」
そんな心身の変化を感じることはないでしょうか。
ストレスというものを、私たちはつい「多いか、少ないか」で考えがちです。
けれど、同じように忙しく働いていても、元気に過ごせる人もいれば、眠れなくなる人もいます。
以前は平気だった生活が、ある時から急につらくなる人もいます。
この違いを考えるとき、一つの手がかりになるのが「ストレス曲線」という考え方です。
今回は少し専門的な話も交えながらになりますが、
「今、自分の心身の状態はどのあたりにいるのか」
について、一緒に考えてみたいと思います。
アライアンス統合医療が提唱した「ストレス曲線」
アメリカの医師、スティーブ・アモイルズとサンディ・アモイルズ夫妻は、統合医療の臨床に長く携わってきた医師です。
二人は著書『Get Well & Stay Well: Optimal Health Through Transformational Medicine』(2012年)の中で、長期的なストレスに対して心身の状態がどのように変化していくのかを、「ストレス曲線」として紹介しています。
さらに2014年に医学誌『Global Advances in Health and Medicine』に発表した症例報告では、このストレス曲線を実際の臨床評価に用い、コルチゾール、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、神経伝達物質、炎症、自律神経機能などとの関連についても記述しています。
そこで示されているのが、次の5つの段階です。
1.気分最高(Exhilaration)
2.過覚醒・疲労(Wired and Tired)
3.疲労困憊(Exhausted)
4.疲労困憊と炎症(Exhausted and Inflamed)
5.圧倒され、エネルギーが枯渇した状態(Overwhelmed and Depleted)
ただし、これは病気を診断するための医学的な分類ではありません。
すべての人が必ず1から5へ順番に進んでいく、という意味でもありません。
ストレスに対して、今の自分の身体がどのような反応をしているのかについて、
自分の現在地を考えるための一つの地図として見てもらえればと思います。

① 気分最高—ストレスがあっても、ちゃんと戻れる
最初の段階では、気力もあり、身体も動きます。
仕事をして、運動して、人と会って、多少疲れても、眠ればまた元気になる。
ここで大切なのは、
ストレスがある=不健康ではないということです。
私たちの身体には、外から刺激を受けると、それに適応しようとする働きがあります。
運動でも、適度な負荷をかけ、休息をとることで身体はその刺激に適応していきます。
仕事や新しいことへの挑戦、人との関わりも、ある意味では同じです。
刺激を受ける。反応する。そして、戻る。
大切なのは、ストレスをまったく受けないことではなく、反応したあとに戻れることです。
だからこの段階では、ストレスをなくそうとするよりも、
よく動き、よく休み、よく楽しむ。
そんなリズムを保つことが大切になります。

② 過覚醒・疲労—疲れているのに、止まれない
次の段階では、
「神経は高ぶっているのに、身体は疲れている」という状態が目立ってきます。
身体は疲れているのに、頭はずっと動いている。夜になっても仕事のことを考えている。そして、布団に入ってもなかなか眠れない。以前よりイライラする。首や肩から力が抜けない。
それでも仕事や家事はできるので、
「まだ大丈夫」と思ってしまいます。
アモイルズらのモデルでは、この段階でコルチゾールの日内リズムが乱れ、朝は低く、夜には高くなるパターンがみられる場合があるとしています。
コルチゾールは通常、朝に高く、夜に向かって低下していくリズムがあります。
この話を日常の感覚に置き換えるなら、
「朝はしんどいのに、夜になると妙に目が冴える」という状態といえましょう。
この段階で大切なのは、まだ頑張れていることを「元気」だと勘違いしないことです。
予定を詰め込みすぎていないか。夜まで仕事を持ち込んでいないか。運動の強度が今の身体に合っているか。一人で静かに過ごす時間があるか。
そんなところから、暮らし方を見直してみる必要があります。
③ 疲労困憊—「頑張れば動ける」が通用しなくなる
ストレスへの対応がさらに長く続くと、②とは少し様子が変わってきます。
以前なら疲れていても仕事はできたし、気合いを入れれば動けた。
ところが、
どうも朝から身体が重い。休日に寝ても戻らない。集中力が続かない。人と会うことが億劫になる。好きだったことさえ面倒になる。
頑張ろうとしても、なんだか身体がついてこなくなるのです。
アモイルズらは、この段階ではコルチゾールが一日を通して低くなる傾向や、DHEAなどの低下を挙げています。
つまり彼らのモデルでは、
②の「疲れているのに止まれない」状態から、
③では「頑張ろうとしても、もう身体がついてこない」状態へ変わっていくと考えます。
もちろん、疲労には貧血、甲状腺疾患、睡眠障害、感染症、薬の影響など、さまざまな原因があります。「疲れているから③だ」と自己判断するものではありません。
ただ、以前のように休んでも戻れなくなっている。
これは、今までと同じ生活を続けていいのかを考える、一つのサインにはなるでしょう。

④ 疲労困憊と炎症—ストレスは「気持ち」だけの問題ではない
アモイルズらのストレス曲線で興味深いのが、この第4段階です。
彼らのモデルでは、第3段階でみられる変化に加えて、炎症に関係するサイトカインや、インスリン抵抗性などにも変化がみられる可能性を挙げています。
サイトカインとは、簡単にいえば、免疫細胞などが情報をやり取りするために使っている物質です。
ここで大切なのは、アモイルズ夫妻の5段階そのものが、現在の標準医学で確立された病気の進行モデルではないということです。
しかし一方で、ストレスと炎症の関係そのものについては、多くの研究が行われています。
心理的なストレスを受けたあとに、炎症に関係する物質が変化することは、複数の研究をまとめたメタ解析でも報告されています。
また、慢性的な心理社会的ストレスと、全身の低度炎症との関連も指摘されています。
さらに、慢性的なストレス状態では、炎症を調節するコルチゾールの働きが免疫細胞側に伝わりにくくなり、炎症反応を十分に鎮めにくくなる可能性も研究されています。
少し専門的な話が続きましたが、
ストレスが長く続くと、身体の「炎症を調節する仕組み」にまで影響することがあるのだ
と考えると分かりやすいでしょう。
ただし、炎症そのものが悪いわけではありません。
炎症は、感染やケガから身体を守り、修復するために必要な反応でもあります。
必要なときに反応して、役割を終えたら鎮まる。
ここでもやはり、
「反応して、また戻る」という身体のもつ本来の力が大切になります。
だからストレスは、単なる「気持ちの問題」だけではないのです。
脳、自律神経、ホルモン、免疫、代謝など、
それぞれが互いに影響し合いながら、一つの身体としてストレスに対応しています。
一方で、痛みや強い倦怠感、発熱、体重の変化、消化器症状などが続いている場合は、
「ストレスだから」と決めつけず、
まず医療機関で必要な検査や診断を受けることも大切な選択肢です。

⑤ エネルギーが枯渇した状態—回復する余力そのものが少なくなる
アモイルズらは、この段階ではコルチゾールの日内リズムが平坦になり、低値を示す場合があるとしています。
さらに、自律神経機能の異常やHRV(心拍変動)の低下なども挙げています。
HRVとは、一拍ごとの心拍間隔にある微妙な「ゆらぎ」を見る指標です。
健康な心臓は、メトロノームのようにまったく同じ間隔で動いているわけではありません。
呼吸したり、動いたり、休んだりするたびに、その間隔は細かく変化しています。
つまり元気な身体とは、
「いつも一定の身体」ではなく、状況に合わせて柔軟に変化できる身体でもあるのです。
この段階では、
朝起きること自体がつらい。人と話すだけでも疲れる。何かを始めるエネルギーが出てこない。休んでも「充電された」という感じがしない。
そんな状態になることがあります。

ここまで余力が落ちている人に、
「もっと運動しましょう」「生活習慣を全部変えましょう」
と一度に多くのことを求めても、それ自体が新たな負担になることになります。
必要な医療的評価を受けたうえで、
眠る。食べる。負担を減らす。安心できる時間をつくる。必要な人の助けを借りる。
そんなふうに、回復するためのエネルギーまで使い切らないことが大切になります。
「今までは一回で良くなっていたのに」
ストレス曲線そのものに当てはめることはできませんが、この曲線を見ていて思い出す臨床例があります。
私がこれまでに長く診てきた50代の女性です。
中央市場で事務の仕事をしながら、配達にも出る方でした。
以前から季節の変わり目になると、突然腰が痛くなったり、首が回らなくなったりして、年に数回施術を受けに来られていました。
これまでは、一度施術するとほとんどの場合は楽になっていました。
ただ、ここ最近ずっと気になっていたことがあります。
年齢とともに身体が硬くなってきていること、それはご本人も自覚されていました。
そのため私は、痛みが出てから施術を受けるだけでなく、普段から身体を動かすことや、簡単な体操を続けることを毎回お伝えしていました。
その場では必要性は理解されているのですが、症状がなくなると、なかなか続かないご様子でした。
そして先日、半年ぶりに激しい腰痛が出て来られました。
いつものようにからだ調律のセラピーの施術をさせてもらったのですが、今回は、これまでのようには戻りません。
一度では十分には改善せず、何度か施術が必要になりました。
もちろん、このケースだけを見て「この方の状態がストレス曲線の②から③へ進んだ」と判断することはできません。
腰痛にはさまざまな原因がありますし、年齢による身体の変化、仕事での負担、運動量など、多くの要因が関係します。
それでも、身体は、ある日突然悪くなるとは限りません。
以前より疲れが残る。身体が硬くなる。同じ仕事が前よりしんどく感じる。そして、以前ならすぐ治まっていた症状が長引く。
こうした変化も、
「これまでと同じ身体の使い方では、戻りにくくなっていますよ」という身体からのサインかもしれません。
この方の場合、身体の変化にまったく気づいていなかったわけではありませんでした。
身体が硬くなっていることも、運動した方がいいことも分かっていました。
それでも、
「痛くなったら施術を受ければ戻してもらえる」というこれまでの経験があり、日常生活を変えるところまでは至りませんでした。
ここには、身体と付き合ううえで大切なことがあります。
身体のサインに気づくだけでなく、そのサインを受けて何を変えるのか。
施術だけでなく、セルフケア、身体の使い方、休息、睡眠なども含めて、日常の整え方そのものを見直す。
今までと同じ方法で戻れなくなったときには、身体との付き合い方を変える時期に来ているのかもしれません。
セラピーは、悪くなってから受けるものではない

このストレス曲線を見ていると、セラピーは④や⑤まで状態が悪くなってから受けるものではない、ということも分かります。
①なら、良い状態を維持し、自分の身体の変化に気づくために。②なら、まだ動けるうちに、過剰な緊張から休める状態へ戻るために。③なら、自力だけで頑張る方向から、回復を優先する方向へ切り替えるために。④なら、必要な医療を受けながら、身体・心・暮らし方を含めて回復を支えるために。⑤なら、今残っている力を大切にしながら、回復できる土台をつくっていくために。
同じセラピーでも、
その人が今どこにいるかによって、目的も方法も変わります。
猫の穴では、「この症状だからこの方法で」と単純には考えません。
身体、心、暮らし方。
そして必要に応じて、エネルギーの状態。
その人全体を見ながら、
今、この人には何が必要なのかを一緒に探していきます。
あなたは今、ストレス曲線のどこにいますか?
ストレス曲線は、自分を診断するためのものではありません。
「私は④だから悪い」「①だから健康」
と評価するためのものでもありません。
今の自分を知るための地図です。
最近、ちゃんと眠れているだろうか。疲れたあと、戻れているだろうか。以前より無理をしていないだろうか。身体は何か伝えていないだろうか。
そんなふうに、自分の現在地を見てみるためにつかえます。

そして必要なら、
暮らし方を変える。休みをとる。医療機関に相談する。誰かに助けを求める。セラピーを利用する。
現在地が分かれば、次に必要なものも選びやすくなります。
健康とは、いつも元気でいることではありません。
ストレスを一切受けないことでもありません。
たとえ疲れることがあっても、自分の変化に気づけること。
そして、その時の自分に必要なものを選びながら、また戻ってこられること。
その「戻れる力」を育てていくことも、健康の大切な一部だと猫の穴は考えています。
編集者プロフィール

からだ道場【猫の穴】代表の
稲田 やすひろ です。
東洋医学や心理学、
身体療法やエネルギーワークを探究しながら、
30年以上にわたり多くの方の心と体に向き合ってきました。
私が大切にしているのは、
「不調をなくすこと」だけではなく、
その人らしい健康と暮らしを育て、
本来の生命力が発揮されることです。
このコラムでは、
そんな視点から日々感じていることや、
健康・暮らし・生き方のヒントを綴っています。
どんな状態にも理由があります。
その声を軽く扱わず、丁寧に向き合うことを大切にしています。



