Column

からだは“未来”に反応している ——不安や期待が、体の緊張をつくる理由
  • 2025/09/02
  • こころと感情の整え方
まだ起こっていないことなのに、
考えただけで胸がざわつく。

来週の予定を思い浮かべるだけで、
気が重くなる。

逆に、
楽しみにしている約束のことを思うと、
胸が開いて呼吸が入りやすくなる。

そんなことはありませんか。

私たちはふつう、
体の不調は「過去の疲れ」や「これまでのストレス」から来るものだと考えがちです。

もちろん、それはそれであります。

でも実際には、
からだは過去だけでなく、
これから起こると予測していることにも反応しています。


未来は、まだ起きていなくても体に影響する


神経科学には、
「予測処理」という考え方があります。

脳や神経は、今この瞬間だけを処理しているのではなく、
「このあと何が起きそうか」を先回りして予測しながら動いています。

だから、

・嫌な出来事を思い出すと体が縮こまる
・先の予定を想像しただけで胃が重くなる
・楽しみな未来を思うと胸が広がる

そんなことが起こります。

つまり、まだ起きていないことでも、
からだにとってはすでに反応する対象になっているのです。

不安は、未来を閉じた方向にさせる


問題は、過去の体験が、
未来の感じ方そのものを縛ってしまうときです。

たとえば、

・人間関係で傷ついた経験がある
・頑張っても報われなかった
・何度も体調を崩してきた

そんな経験が重なると、
からだは「また同じことが起きるかもしれない」と先回りして構えるようになります。

すると、

・呼吸が浅くなる
・眠りも浅い
・疲れが抜けない
・いつもどこか緊張している

そんな状態が続きやすくなります。

これは、未来そのものが悪いとかではなく、
未来に対する予測のしかたが、
からだに残ってしまっているだけかもしれません。

希望もまた、からだに先に届く


でも逆に言えば、
未来への感じ方が変われば、
からだの反応も変わるということです。

実際、猫の穴のセッションのあとに

「なぜだか、これからのことを考えるのが楽になった」
「先の予定を思っても、前みたいに苦しくない」

そう話される方がいます。

それは前向きになろうと頑張ったからではなく、
からだの緊張がほどけて、未来を“閉じたもの”として感じにくくなった
ということなのだと思います。

未来は、頭で考えるものでもありますが、
同時に、からだで先に感じているものでもあります。


からだは、未来への方向感覚を失うことがある


慢性的な不調が続くと、
人は「今がつらい」だけでなく、

「この先もずっとこうなのかもしれない」

という絶望にも似た感覚を持ちやすくなります。

それは気持ちの問題だけでなく、
からだが未来を“狭く”感じてしまっている状態です。

でも、体の奥にあった緊張がゆるみ、
呼吸が戻り、
自律神経系が安心の回路に入ると、

「この先のことを考えても、息苦しくない」
そんな感覚へと、ふっと戻ってくる。

それは、未来に向かって体が開いていく感じです。

小さな違いかもしれませんが、
この違いが回復の流れを変えていくことがあります。

未来を変えるのではなく、感じ方を整える


大切なのは、
無理に前向きになることではありません。

無理に未来を明るく信じ込もうとすることでもない。

まずは、
未来を思い浮かべたときの体の反応に気づくことです。

胸が縮むのか。
お腹が固くなるのか。
呼吸が止まるのか。

その反応に気づくことが、
からだの予測を少しずつ変えていく入口になります。

未来を変える前に、
未来に向かうときのからだの向きを整えていくこと。

それもまた、
回復の一つの形になるのだと思います。
編集者プロフィール
からだ道場【猫の穴】代表の
稲田 泰弘(いなだ やすひろ)です。

病院では「異常なし」と言われたけれど、
体や心のつらさが続いている。
その状態を、私は軽く扱いません。

からだ道場猫の穴では、
あなたの感覚を尊重します。
その上で、体と心の反応を一緒に確かめていきます。

このコラムは、
日々の現場や対話の中で感じてきたことを
ひとつの視点として綴っています。

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