
コラムColumn
- 生きている実感がないとき ——閉じ込めた感情が、からだに残る
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- 2025/06/18
- こころと感情の整え方
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ちゃんと暮らしているのに、どこか空っぽな感じがする
毎日をそれなりにこなしている。仕事もしているし、人とも話している。やるべきことも、いちおうやれている。
なのに、ふとしたときに「ちゃんと生きているはずなのに、生きている感じがしない」そんな感覚に気づくことはありませんか。
大きく落ち込んでいるわけではない。何もかも止まっているわけでもない。でも、どこかぽっかりしている。自分の中心が少し遠いような、そんな感じです。
それは、気のせいでも、わがままなわけでもありません。こころの問題だけで片づけられるものでもないと思います。
もしかするとその背景には、感じないようにしてきた感情が、からだの奥に残ったままになっているということがあるのかもしれません。

感じないようにしてきたものは、なくなったわけではない
日々の暮らしの中で、私たちはたくさんのことを考え、判断し、動いています。その一方で、「感じること」は後回しになりやすいものです。
本当はつらい。本当は不安。本当は悲しい。腹が立っていたこともあった。さみしかったことも、傷ついたこともあった。
でも、そこで立ち止まっていたらやっていけない。感じてしまうと、もっと苦しくなる。人にわかってもらえないなら、感じないほうがまし。
そうして、気づかないうちに感情を奥へ押し込めながら過ごしていると、表面では普通に生活できていても、からだの反応は少しずつ固まり、鈍くなっていくことがあります。
呼吸が浅いままでも、それが当たり前になる。胸のつかえや、みぞおちの重さに気づけなくなる。肩や首に力が入りっぱなしでも、自分ではよくわからない。疲れているのに、疲れたという感覚さえ、ぼやけてくる。
何も感じないほうが楽に思える時期もあります。
でもその状態が長く続くと、つらさだけでなく、安心する感じや、ほっとする感じや、「これがしたい」という内側の動きまで遠のいてしまうことがあります。
感情は、こころの中だけで止まっているわけではありません
感情とからだは、別々ではありません。
不安が強いと呼吸は浅くなりやすいし、悲しみを抱えたままだと胸のあたりが固くなることがあります。怒りを飲み込み続けていると、あごや首、背中に力が入りやすくなることもある。
つまり、感じきれなかった感情は、ただ「気持ちの問題」として残るだけではなく、からだの緊張や無感覚として現れてくることがあるのです。
逆にいうと、からだの反応を丁寧に見ていくと、自分でも気づいていなかった感情の存在にふれることがあります。
しんどさの理由が、頭では説明できない。でも、からだはずっと何かを抱えていた。そんなことは、少なくありません。
抑えていた感情にふれると、からだが先に反応することがある
こころ解放セラピーの中で、ときどき見られることがあります。
最初は「何を感じているのか、自分でもよくわからない」「別にそこまでつらいわけではないんです」と話していた方が、少しずつ自分の内側にふれていくうちに、呼吸が深くなっていく。
胸やお腹のあたりの緊張がゆるむ。言葉になる前に、目が潤む。うまく説明できないけれど、何かが動いた感じがする。
大きな反応ではないことも多いです。ただ、止まっていたものがわずかに動きはじめるような、そんな小さな変化があらわれることがあります。
それは、感情に飲み込まれているのではありません。
長いあいだ抑え込まれていたものが、ようやく少し動けるようになってきた反応なのかもしれません。

解放は、激しく吐き出すことではなく、奥にある反応をほどいていくこと
「感情を解放する」と聞くと、泣き叫ぶことや、抑えていた思いを一気にぶつけることを想像する人もいるかもしれません。
でも実際には、そういうことばかりではありません。
本当は傷ついていたことに気づく。ずっと我慢していたことに気づく。怒っていたのではなく、悲しかったのかもしれないとわかる。何も感じないと思っていた奥に、まだやわらかい反応が残っていたと知る。
そういうふうに、言葉にならなかった感情に少しずつふれながら、からだにたまっていた緊張や固さもゆるんでいく。
こころ解放セラピーは、そうした変化を助けていく時間です。
無理に思い出させるものではありません。感情を大きく出させるためのものでもありません。
その人のペースで、もう抱え込まなくてもいい反応を少しずつほどいていく。そのための場です。
何を感じているのかもわからないときこそ、入り口があります
「自分には、解放するほどの感情なんてない気がする」「何がつらいのか、うまく言えない」そう感じる人も少なくありません。
でもそれは、感情がないということではなく、長いあいだ後回しにしてきたことで、感じ方がわかりにくくなっているだけかもしれません。
だから、最初からはっきりわからなくても大丈夫です。うまく言葉にできなくても大丈夫です。

こころ解放セラピーは、自分でもまだつかめていない感情に、無理なくふれていくための時間でもあります。
もし、しんどさはあるのに何を感じているのかわからない。生きている実感が薄い。頑張っているのに、どこか空っぽな感じがする。
そんな状態が続いているなら、その奥に閉じ込められてきた感情が、静かにほどける入口が必要なのかもしれません。
編集者プロフィール

からだ道場【猫の穴】代表の
稲田 泰弘(いなだ やすひろ)です。
病院では「異常なし」と言われたけれど、
体や心のつらさが続いている。
その状態を、私は軽く扱いません。
からだ道場猫の穴では、
あなたの感覚を尊重します。
その上で、体と心の反応を一緒に確かめていきます。
このコラムは、
日々の現場や対話の中で感じてきたことを
ひとつの視点として綴っています。
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