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腰は治っているのに、なぜ痛みだけが残るのでしょう。 ― 慢性腰痛と「身体が覚えているもの」
  • 2026/07/27
  • 症状・からだのサイン
「治療を受けるのが怖くなってしまったんです。」

そんな、忘れられないクライアントさんがいます。

長年、腰痛に悩まれていた30代の女性でした。

整形外科では、特に「異常なし」です。

整体やカイロプラクティックにも何軒か通われ、
その場では多少楽になるものの、数時間するとまた元に戻ってしまう。

そんなことを何年も繰り返されていました。

お話を聞く中で、ひときわ印象に残った言葉があります。

「また動けなくなったらどうしよう。」

この言葉の意味は、

以前、施術を受けたあと、
ベッドから起き上がろうとした瞬間に腰が固まり、痛みと怖さで動けなくなった経験が何度かあったというのです。

その体験以来、「またあの痛みが起きるかもしれない」
という恐怖が抜けず、身体はいつも身構えた状態になっていたのです。


私はこの方の腰痛は、
筋肉や骨の問題だけで対処しても難しいな。

そう感じていました。

身体は、「体験」を覚えています。

人の身体は、とても賢くできているな、といつも感じます。

危険なことが起きると、それを覚え、次は同じことが起きないようにと身を守ろうとします。

それは、生きていくために欠かせない身体の働きです。

ただ、その働きが強く残りすぎることがあるんです。

というのも身体は、痛みだけを覚えているわけではありません。

痛みを感じたときの恐怖や不安、身体の緊張まで含めて、一つの体験として覚えています。

すると、同じような場面に遭遇すると思っただけで、

「また痛くなるかもしれない!」

と身体が先に反応してしまうのです。

呼吸は浅く、筋肉は緊張し、
神経は休めなくなる。

そして、その緊張が、さらに痛みを引き起こしていくのです。

身体で起きていることを理解したとき、変化が始まりました。

当時の私は、身体の奥に残った筋肉の緊張を丁寧に整えるような施術を行っていました。

その一方で、施術のたびに、
この方の身体で、今何が起きているのかを対話しながら一緒に深掘りしていきました。

「腰に問題があるから痛い」のではなく、
「また痛くなるかもしれない」という恐怖が、身体を必要以上に緊張させていること。

その緊張が、さらに痛みを強くしてしまっているかもしれないこと。



最初は、本人も筋肉や骨の問題だと思われていたので、半信半疑で聞かれていました。

でも、施術を受けながら身体の反応を一緒に確かめ、対話を重ねるうちに、

「あっ!そういうことだったのかも。」

と、ご本人の中でストンと腑に落ちる感覚があったそうです。

すると、あれほど強かった痛みへの恐怖感が薄れ、
それに合わせるように長年続いていた腰痛も劇的に改善していったのです。

もちろん、すべての慢性腰痛が同じ理由で起きているわけではありません。

それでも私は、この経験から一つのことを確信しました。

クライアントさん自身が、自分の内側で起きていることを理解することは、回復の大きなきっかけになるのだと。

最新の研究も、同じ方向を示しています。

近年、慢性腰痛の研究では、脳のDLPFC(背外側前頭前野)という場所が注目されています。

ここは、危険を判断したり、痛みや感情を調整したりする働きを持つ場所といわれています。

慢性腰痛では、この働きに不安定な変化が見られることや、
「また痛くなる」という恐怖が強い人ほど、痛みが長引きやすいことも分かってきました。

この研究の記述を読んだとき、私はあのクライアントさんのことを思い出しました。

「ああ、あの臨床で見てきたことは、こういうことだったのか。」

そう理解できたのです。

身体は、安心も学び直すことができます。

慢性腰痛には、さまざまな背景があります。

筋肉や関節の問題。
自律神経の乱れ。
長く積み重なった感情。

人によって、その背景はまったく違います。

だから猫の穴では、「腰痛だからこの方法」と決めることはありません。

その方の身体で、今何が起きているのか。

何が回復を止めているのか。

そこを丁寧に見立てながら、その方に合った方法を選んでいます。

そして、私が長年の臨床で実感していることがあります。

身体は、危険を学習してしまうので、痛みが長引くことがあります。

でも、それと同じように、
身体は安心も学び直すことができます。


長く続く腰痛は、ただ「腰が悪い」という単純な問題ではありません。

身体が危険を学習し、痛みの状態から抜け出せなくなっていることもあるのです。

だから回復への道は、痛みだけを追いかけることではありません。

あなたの身体がもう一度、「ここは安全なんだ」と感じられるようになることです。

例えば、

朝、起き上がることを怖がらなくていい。

少し遠くまで歩いてみようと思える。

「また痛くなるかもしれない」より、「今日は大丈夫そうだ」が増えていく感覚です。

そんなふうにして身体は、小さな安心を一つずつ覚え直していける。

だから、かならず希望があるんです。


編集者プロフィール
からだ道場【猫の穴】代表の
稲田 やすひろ です。

東洋医学や心理学、
身体療法やエネルギーワークを探究しながら、
30年以上にわたり多くの方の心と体に向き合ってきました。

私が大切にしているのは、

「不調をなくすこと」だけではなく、

その人らしい健康と暮らしを育て、
本来の生命力が発揮されることです。

このコラムでは、
そんな視点から日々感じていることや、
健康・暮らし・生き方のヒントを綴っています。

どんな状態にも理由があります。
その声を軽く扱わず、丁寧に向き合うことを大切にしています。

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